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リスクアセスメントの実際




1)リスクアセスメント実施の手順

1)リスクアセスメントの目的
リスクアセスメント(危険性又は有害性等の調査)は、現場や作業に潜在する労働災害の発生原因となる危険性又は有害性を特定し、特定した危険性又は有害性を「労働災害の重篤度」と「労働災害の発生する可能性の度合」でリスクを見積り、優先度の高いものからリスク低減措置を実行するもので、いわゆる先取りの安全衛生であり、安全衛生水準の向上を目的としている。

2)建設業におけるリスクアセスメント
建設業における労働者の危険又は健康障害を防止するためには、リスクアセスメントを行うことが重要となるが、建設工事は元方事業者による統括管理のもとで進められており、特に、個々の建設作業所においてリスクアセスメントを的確に行うためには、元方事業者による統括管理の中にリスクアセスメントを位置付け、元方事業者と関係請負人が連携を図るべきである。そのためには、元方事業者と関係請負人の果たす役割を明確にする必要がある。
また、建設業は、有期事業の単品受注生産であること、安全衛生対策を実行するうえで店社と建設作業所の役割分担があることなど、他の産業と異なる特徴があり、リスクアセスメントを行ううえでもこのような建設業の特徴を考慮する必要がある。

3)店社及び作業所が行うリスクアセスメント
店社において行うリスクアセスメンは定期的に(例えば1年ごと)行うことが大切である。
このため、蓄積した情報が必要となります。また店社は建設作業所における安全衛生対策の立案や日常の安全衛生管理の支援を行います。パトロールの指摘事項や作業所で発生した災害、ヒヤリ・ハット等の情報を蓄積しておくことは、店社の重要な役割となる。
一方、建設作業所(現場)においても工事安全衛生計画(一般には施工計画の中に含まれる)等が作成されており、これは店社安全衛生計画等を反映したものになる。したがって、店社が定期的に行うリスクアセスメントは、工事ごとに定める安全衛生計画等にも間接的に反映されていることになる。
リスクアセスメントは、労働安全衛生マネジメントシステムの中に組み込まれ、「計画→実施→評価→改善」というPDCAサイクルを通して、潜在する危険性又は有害性を低減させることができる。

 a.危険性又は有害性等の調査等の目的
  1.安全衛生水準の向上
  2.労働災害を防止し災害の減少
  3.安全衛生管理活動の活性化

4)リスクアセスメントの実施方法
リスクアセスメントの導入で一番大切なことは、職場全体で危険(危険性又は有害性)について「常に気づく感性と問題解決力」を育てることである。
そのためには、自分が体験した危険や、同僚が体験した危険について自由に話し合える職場づくりが必要となる。
企業全体が組織を上げてリスクアセスメントに取り組むためには、会社(事業者)として次の事項が必要になる。

 a.リスクアセスメント導入の宣言
会社は、現場や作業に潜在する危険性又は有害性の低減のため、リスクアセスメントを導入することを宣言する。

 b.リスクアセスメント実施体制の確立
  @リスクアセスメントを導入するために、店社においては、総括安全衛生管理者の統括管理のもと、安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者等、安全衛生スタッフ等が調査等を実施する。
  A現場においては、請け負った工事の範囲内で、元請が作成した施工計画に従い職長、安全衛生責任者が調査等を実施する。

5)実施時期
店社が定期的にリスクアセスメントを行うのが効果的である。また、作業所においてリスクアセスメントを行う時期は、工事ごとに施工計画等を作成する場合や工事ごとに作業手順書等を作成する場合などである。また、元方事業者及び関係請負人は作業等の開始前にリスクアセスメントを行った結果であるリスク低減措置の実施が必要となる。

6)対象の選定
・過去に労働災害が発生した工種、作業等を対象とする。(他の事業場も含む)

7)情報の入手
過去の労働災害、ヒヤリ・ハット、パトロール結果などを入手し、その情報をデータベース化すれば、効果的なリスクアセスメントが実施できる。


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2)リスクアセスメントの具体的実施内容

1)事前準備
a.リスクアセスメントの体制づくり
 1.役割分担、実施時期を決める。
 2.会社の実情にあった実施方法、判断基準を定める。
 3.上記で決定した体制を関係者に周知、教育する。
b.情報の収集と整理
 1.リスクアセスメントで活用する情報を収集する。
 ・危険予知活動(KY活動)記録から
 ・日常点検の結果から
 ・災害防止協議会の議事録から
 ・安全パトロールの結果から
 ・混在作業の状況から
 ・自社の災害事例、ヒヤリハット事例から
 ・同業他社の災害事例、ヒヤリハット事例から
 ・作業場特有の作業環境等から
 ・元請けから指示、指導された事項から
 ・過去のリスクアセスメントの記録から
 ・官公庁、団体の統計資料から
2.これらの情報はいつでも活用できるように整理しておく。

2)ステップ1 危険性又は有害性の特定(洗い出し)
a.危険性又は有害性を特定して分類する。
1.過去の災害事例、ヒヤリハット事例、パトロール結果などの情報から「どのような危険がひそんでいるか」を洗い出す。
2.作業手順書では、各作業の手順ごとに「どのような危険がひそんでいるか」を洗い出す。
3.設備に「どのような危険がひそんでいるか」を洗い出す。

3)ステップ2 リスクの見積り
a.危険性又は有害性により災害発生の可能性の度合及び災害の重篤度の組み合わせからリスクを見積る。
b.見積りのポイント
 1.法律で決まったものではないので、各会社(企業)ごとに『見積り基準』を自主的に定める。
 2.あらかじめ重篤度、可能性の度合いごとに見積り基準を決めておく。また危険接近作業(機械・車両等に近づく)について、近づく頻度により、区分を決めておく方法もある。
 3.災害の重篤度と発生する可能性の度合いを数値化して、それぞれを乗算又は加算してリスクを見積る。○△×のように数値化せずに記号で表わしてもよい。
 4.危険性又は有害性によるリスクが、どの程度なのかを明確にする。
 5.会社の実情に即して、あらかじめ定めた『見積り基準』により見積る。
 6.作業する人の、誰にどのような負傷が発生するかを予想した上で、重篤度を見積る。
 7.負傷の程度は、最悪の状況を想定した最も重篤なもので見積る。
 8.該当作業を行うものだけではなく、作業の工程上、周囲の他職の作業者も検討する。
 9.目の付けどころ 例
 ・墜落、転倒 →高さ、場所、通路状態、作業床の状態
 ・土砂崩壊  →地山、土質、掘削角度、場所
 ・有害性物質の取扱い →接触の頻度、有害物質の濃度、換気の状況
 ・はさまれ、巻き込まれ →回転部への接近、囲い、稼動範囲

c.リスクの見積り例
 1.災害(ケガ)発生の可能性の度合  見積り基準(3段階の場合)
災害が発生する可能性の度合 可能性の判断基準 数値 記号
ほとんどない 5年間に1回程度 1
可能性がある 1年間に1回程度 2
確実又は可能性が極めて高い 6ヵ月に1回程度 3 ×

 2.災害の重篤度  見積り基準(3段階の場合)
災害の重篤度 重篤度の判断基準 数値 記号
軽微 不休災害の場合 1
重大 休業災害の場合 2
極めて重大 死亡、障害を伴う災害の場合 3 ×

 3.見積り基準に基づいたリスクの見積り(数値を加算した場合)
重篤度
可能性の度合い
軽 微 重 大 極めて重大
ほとんどない 1+1=2
レベル1
2+1=3
レベル2
3+1=4
レベル3
可能性がある 1+2=3
レベル2
2+2=4
レベル3
3+2=5
レベル4
確実又は可能性が
極めて高い
1+3=4
レベル3
2+3=5
レベル4
3+3=6
レベル5

 ・見積り基準を何段階にするか、またリスクレベルを何段階にするかは、それぞれの会社の実情に合わせ、あらかじめ決めておく。
 ・始めから段階数を多くすると、複雑になりすぎる恐れがある。

4)ステップ3 リスク低減のための優先度の設定
リスク見積りによるリスクレベルごとに定められた優先度で、リスクを低減するための対策を決定する。
a.評価(5段階)
優先度(リスクレベル) 判  定
5 早急に対策が必要 他の方法に回避する
4 抜本的な措置が必要
3 計画的な改善が必要
2 改善が必要
1 状況により改善が必要

b.リスク低減を検討する時の心構え
 1.安全衛生法等法令で定められた事項は必ず実施する。
 2.リスクを低減するための対策は次の順にできるものから
  @より安全な作業方法へ変更
  (例)有機溶剤を含む塗料から水性塗料へ ⇒ 安全な材料に変更
     地上で足場を大組する  ⇒高所作業を減らす
  A機械や設備の対策
  (例)有機溶剤作業場所の換気⇒有機物質の排出設備
   クレーンの過巻防止装置⇒ミスをしても災害にならない。
  B作業手順の整理 教育訓練等作業者の管理
  (例)危険・有害業務の作業手順教育 →作業者が安全に作業できるようにする。
  C保護具の使用
  (例)防じんマスク、防毒マスク、安全帯、保護衣等の使用

c.合理的、現実的に実現可能な低いレベルまで、リスクを下げる努力をする。

5)ステップ4 リスク低減措置の検討・実施
a.検討し、決定したリスク低減措置を作業場所で実施する。
 ・実施時期(いつ)、実施責任者(誰が)、実施対象(何を)などを具体的に決めて、確実に実施する。
 ・建設現場は安全施エサイクルの中で実施する。

6)スヲ=ツプ5 記録
a.実施したリスクアセスメントの結果は、次のリスクアセスメントに活用するため記録として残す。

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3)リスクアセスメント作業手順書作成上の留意点

1)RA作業手順書作成の流れを下図に示します。
@まとまり作業(工種)を単位作業に分ける ・例えば、鉄筋組立て作業(まとまり作業)を単位作業に分けると、「スラブ鉄筋組立」「梁鉄筋組立」「柱鉄筋組立」等となる
A単位作業を作業ステップごとに分類する ・作業ステップ
⇒作業の変わり目または作業の一区切り
B作業ステップを最も良い順番に並べる ・最もよい順序⇒ムダな動作はないか
作業姿勢にムリはないか
ムラのある仕事となっていないか
危険な動作となっていないか
C作業ステップの「急所」を記載する ・作業ステップの急所
⇒仕事の成否を決める動作のカンやコツのことで、場合によっては具体的に数字で表現すると良い(○○cmで、○○m以内で)
D作業区分を行う ・作業区分
⇒準備作業(工具、保護具の点検等)
本作業
後始末作業(片づけ、整理整頓等)の3区分
Eリスクアセスメントを行う

2)作業手順書作成上の留意点
作業手順書は、正しい動作を促すためのマニュアルですので作成にあたっては、下記の点に留意する必要があります。(作成例参照)
 @作業の実態に合ったものであること。
 Aムダ、ムラ、ムリが生じないように作業ステップがつながるものであること。
 B作業ステップ及び急所は簡潔(15字程度)に記述すること。
 C急所の表現は、急所→主なステップとつなぐと1つの文章になるよう表現すること。
  例:作業主任者の指示のもとに(急所)→型枠を組み立てる。(主なステップ)
 D1つのステップに対する急所は、3項目以内とすること。
 E急所や災害の防止対策欄の表現は、「〜する」という肯定語で記述すること。
  *「〜しない」「〜を禁止する」などの否定語は使用しない。
 F危険性または有害性は、「〜するとき(作業ステップ)、〜するので(危険性又は有害性)、〜になる(事故の型)」と表現すること。
 G対策の検討順序は
  a)設計や計画段階の変更
  b)設備面の対策
  c)管理面の対策
  d)個人に依存する対策
とすること



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